隠者の湯


2008.01.18
作:石山

 

 古くから開かれた温泉郷は、未だに大きなホテルの進出はなく、ひなびた温泉旅館が立ち並んでいる。その中で最も奥に位置し、山腹にめり込むように建っている旅館があった。

「女将さん、今晩のこのお客さんのことなんですが」

 紺色の地味な着物を身に着けた中年の女中が、ロビーの生け花をいじっていた若い女性に声をかけた。若い女性は、花柄の明るい色の着物を纏っており、結い上げた髪がはらりと垂れるうなじが芳しい。

「今日は人も少ないし、芭蕉でいいんじゃないかしら」

 つい最近、若くしてこの旅館の女将となった女性だった。旅館は、山腹には建つものの決して小さくはなく、団体客を受け入れても十分な広さを持っている。ただし、最近では温泉郷自体の客数が減り始めている。

「こんなところね・・・」

 花を生け終わり、満足げに奥へと戻っていく女将。

 ロビーの端で新聞にわざわざ穴を開けて覗く男性がいた。その穴からは、はらりはらりとゆらめく着物の裾が見えていた。

「おきゃくさーん。あんまり見るもんだから新聞に穴があいてますよ」

 先ほどの女中が、笑いをこらえながら、男に声をかける。

「なははは、こりゃ、ほんとに」

 2人して笑う。男は60代だろうか、頭に白いものが混じっているが、なんとも精力に満ちたというか、いやらしそうな顔をしている。

「ここの女将はわかいですな。いやぁ、まぶしいくらいだ」

 女中はテーブルを拭きながら頷く。

「まあねー。でもね。無理してるんですよ・・・」

 女中が声のトーンを落とし、顔を曇らせた。男は話の続きを促すかのように、相槌を打つ。

 女中が言うには、2週間前に女将をやっていた姉が急に行方不明になり、大学に通いながら家を手伝っていた妹である茜が、女将をすることになったのだ。警察にも届けたのだが、まるっきり行方が知れないという。

「それは、難儀な・・・。しかし、若い女将にもそそられるが、その姉というのも美人なんだろうね」
「そりゃーもー。若い頃のあたしとも引けをとらないほどだよ」
「なははは」

 女中との話をひとしきり堪能したその客は、漏れる笑いを隠そうともせずに部屋へと戻っていった。

「ぐひひひ」

 

 夕方から晩にかけては、旅館で最も忙しい時間である。

「治夫! 早くビールもっていかねーか」

 そう言われて、ハッピを着た少年が小さめの体でぐっと力を込め重いビールケースを運ぶ。足取りは軽く、そのまま調理場から宴会場となっている遠い広間の外までビールケースを一息で運んでしまう。

 広間で客の相手をしていた茜が、すれ違った治夫に空のビールケースを下げるように言った。今日のお客は、酒豪が多いようだ。すでに熱燗へと移った客がいるにもかかわらず、ビールの減るスピードが変わらない。

 寡黙に働く治夫に対して、旅館では評判がよかった。

 しかし、この少年は、10日前に転がり込んだばかりなのだ。
 いきなり働かせてくれとやって来たその少年に旅館の誰もが反対した。身元を示すものを何も持っていなかったのだ。しかし、茜の知らない親戚だという少年の話を信じ、茜が決めて雇ったのだ。今では、住み込みで働いている。

 小柄で華奢なように見えて、その力は強い。線の細い感じがして頼りなく見えたものだが、今では力仕事と言えば治夫となっていた。

 宴会もその内に終わり、広間の片付けも大方終わる。お酒のピッチも早かったが、お開きも早かった。茜の評判がよく、来年も慰安旅行に使うと宴会の主である社長が宣言していた。
 女中たちも今日の仕事を終えた者から下がる。女中の多くは近くの家の嫁だ。 

「治夫くん、今晩は湯殿の掃除はいいから、よく休んでね」

 茜がゴミ袋を捨て終えた治夫を見かけて声をかける。まだ、二十歳になったばかりの茜にとって治夫は、歳が一番近い。茜にいきなり声をかけられて治夫はびくっとするが、とまどいもすぐに消えてこくりと頷き去っていく。
 茜は、避けられているように感じ、ちょっと気を落としてしまう。大学にいつ戻れるか分からない今、少しでも人の温かみがほしいのだ。



週に一度は湯殿の掃除を簡単にすませる。その日は、茜にとって旅館の自慢でもある温泉を堪能できる日でもある。

今日は女性客もおらず茜一人で深夜の露天風呂に入った。岩風呂のまわりには高い生け垣が植えられている。

姉の失踪、さらに不馴れな女将業務は、茜に相当なストレスをかけていた。

「お姉ちゃんどこにいるの・・・」

茜はそう言うと湯に顔を浸けた。こうすれば溢れでる悲しみが湯に溶けていくような気がするのだ。

数分湯につかった茜は腰を上げる。湯の上に2つの膨らみがまろびでてくる。

「おっと。いま出ていって貰ったら困るんだわ。大丈夫さ。じきにねえちゃんに会わせてやるからよ」

低い男の声が茜をからめとったかのように、茜はぼんやりとした照明の中に白い裸体を氷つかせていた。

『誰・・・』

 茜の声が出ない。冬の空の下で体が徐々に冷えてきた。しかし、茜の体から雫が落ちきる前に体の自由がきくようになる。それと同時に誰かが中から出てきた。

「女将さん、大丈夫ですか」

 デッキブラシを抱えた治夫が息を切らせている。

「変な気配がしたんですが」

 茜は、湯船に冷えた体を浸しながら、背後を見回す。治夫の出現で、自分の体が動かなくなったのは、勘違いとは言い切れなくなった。背筋が寒くなるのを感じながら、早くこの場から去りたかった。しかし、そのためには目の前にいる治夫が気になるのも確かだ。

「大丈夫です。今、終わりますから」

 いつもは無愛想な治夫は、そう言うと微笑んだ。治夫は、露天風呂の縁に立つと、湯船の中に腕を突っ込んだ。

「邪魔者は逃げたようなので、今のうちにあなたの体をいただきますね」

 茜はその時、再び自分の体が動かなくなったのを感じ取った。治夫の微笑みは消えていた。

「誰かっ」

 茜は力を振り絞って声を出そうとして、そして失敗した。

「誰も入れないようにしてあるし、声くらいなら漏れないと思いますよ」

 治夫が湯から手を出すと、茜を手で招いた。

「さあ、はじめますか」

 茜の体はもう力が入らなかった。治夫は、長袖のTシャツに長ズボンを脱いだ。服の下から小柄ながら引き締まった少年の体が現れる。
 湯船に入り込んだ治夫が茜の柔らかな体を抱え込んだ。

「おお、これはなかなか。やはりお姉さんとよく似てすばらしい体型ですね。しかも、若い・・・」
 
 治夫は茜の背後に回ると乳房に手を添え、乱暴にもみ始める。痛みさえ感じそうなその手業に何故か強い快感を覚えてしまう。快感の波とともに茜の肺から空気が漏れる。

「なんか声がないのも勿体無いな」

 そういった途端、茜の口から切ない声が溢れてできた。治夫の周りの湯が黒くにごり始めた。治夫は、茜の体に吸い付いた。そこが黒く色づいてくる。
 治夫の指が茜の中へと入り込む。

「あ、ぁ」

 茜の中に熱い湯が触れたからなのか、体が燃え上がるように熱くなる。

「やめてっ」
「もうすぐ終わるから黙ってろ」

 茜の前に回ってきた治夫の顔が、治夫ではなくなっていた。それは見知った顔だった。

「お姉ちゃん」

 姉の顔が残忍に歪んでいた。茜の何も受け入れた事のない割れ目に、指ではなく硬くもっと太いものが入るのを感じた。

 こんな形で現れた姉の顔に、夢の中じゃないかと思った。しかし、体から来る痛みと淡い感情が茜の心を現実へと引き戻していった。

「ぅ、う」

 茜の中へと張り出したモノを出し入れする治夫の声が次第に女の声になる。聞きなれた姉の声だ。

「お姉・・・はぁはぁ・・・ちゃんなの?」

 治夫はすでに男の体ではなくなってきた。胸には茜にも負けないほどの乳房が、体の揺れに合わせて弾んでいる。

「間違いなくお姉さんだよ。はは、妹の中が気持ちよすぎて嬉しいようだな、うっ」

 上半身は姉となった治夫はそう言うと、湯とは異なる熱い液体を茜の中へと注ぎ込んだ。茜の周りの湯は完全に明かりを吸収し暗く渦巻いている。時折、その中に覗く治夫の脚は、体毛が全くなくなり、滑らかな肌つやが見える。

「ほら、ちんぽだけになったよ。久々の女の中はたまらないね」

 裸の女2人が露天風呂の中で絡み合う。その間には太く脈動する肉棒が存在するが、それはよく見えない。中から漏れ出てくる白い粘液が湯に触れた途端、白い帯となって固まってしまう。
 その状態が唐突に収まった。片方の女が縁の岩を抱えるように倒れこむ。先ほどまで、治夫であり、姉の姿に変わった者だった。

 茜の荒い息が深夜の空に湯気と共に吸い込まれていく。

「ううう」

 茜は体が動くようになったのか、腰が抜けたように湯の中に倒れこむ。

「けほけほ、あ・・・」

 湯から顔をあげ手で拭った茜は、自分が自由になっていることに気づく。そうなれば真っ先に気になるのが姉のことだ。

「お姉ちゃん!」

胸から下を湯の中にうつ伏せの姉は、さきほどまで治夫だったようには見えない。先ほど突かれた体の余韻、喘いだ記憶がなければ、茜にも信じられない。

「まあ、信じられないだろうね」

 茜がそうつぶやいた。茜ははじめ自分がそう言ったこと自体分からなかった。しかし、分かったとき自分の股間からの異なる感覚に注意がいった。

「気づいたか。ちょっと時間がかかるからな、楽しませてもらうか」

 茜の体は再び体が動かなくなった。いや、正確には自分の意思では動いていない。そう、今は胸を触っている。

「わたしの胸がない!」

 茜は不意に喋れるようになった。触れた手には濡れた肌しか見えない。小さく萎縮した乳首がちょこんと薄い胸にのっかっている。

「なんで・・・、あ、お姉ちゃん、助けて」

 治夫だった者。しかし、姿は完全に茜の姉なのだ。茜は、姉として扱う事とした。いま、茜の中にいる者は、茜の胸を変えたように姉の中へ入り込んで操っていたのだ。

 その姉が今、体を起こし茜の方を向いた。

「大丈夫よ、茜ちゃんもきっと気に入るわ」
「やめてお姉ちゃん。正気に戻って」

 茜はそう言いながら姉に向けて体を差し出した。姉が茜の少年のような胸に舌を這わせ始める。姉の指が舐めていない方の乳首をひねる。萎縮した乳首がわずかに隆起するのが分かる。胸板がわずかに硬くなり始める。そして、今まで滑らかだった乳輪に毛が2、3本生えてきた。

「あぁぁぁ、きゃっ」

 姉は空いた手のひらで少し逞しくなってきた茜の背を撫でる。柔らかな姉の手の感触に体の奥から、しびれるような感覚が湧き上がってくる。

「だ、だめ」

 湯のせいで目立たないが、茜の割れ目からは先ほどの治夫との行為よりも多くの愛液が流れ出ていた。

 胸にキスマークがつきそうなくらい吸い付いていた姉が顔を一瞬上げたと思うと、その割れ目に指を這わせた。

「ほら、もうふさがりかけてるわ。クリちゃんがこんなになってる」

 まるでおしっこでも出るかのように愛液が流れる中、次第に割れ目が膨れ始める。同時に茜のクリトリスが薄い体毛の中から徐々に顔を出し始める。それは、勃っているどころではない。まるで男児の性器のように大きくなっている。

「茜ちゃんが成長していくわ」

 姉は茜の顔を見上げながら、茜のクリトリスをぺろりと舐めた。茜は、痛みかと間違うほどの衝撃を股間から受けて、声にならない悲鳴を上げた。股間からやってくる衝撃の裏に、痒いような疼きが感じられる。

「ほーら、おちんちんの皮も玉もできちゃったわ」

 姉は舐めていた茜のクリトリスを指で剥いた。そこにはあるはずのない穴が存在し、その穴からは透明な汁が流れ始めていた。

「もう少し成長しないとね」

 姉は、完全にちんぽとなった茜のクリトリスと新たにできた玉袋と一緒に口に収めると、吸い取り始めた。舌が別の生き物のように蠢く。姉の舌技に茜は目の焦点が合わないほどの快感を受け、呼吸も数秒止まってしまった。

「ほら、お姉ちゃんのここ使ってもいいよ」

 しゃがみこんでいた姉は、後ろを向き尻を突き出した。

「だめ、やめて」

 茜は自分の体に言った。すでに上半身も下半身も女であった痕跡はない。声も少年のような低い声に変わっていた。しかし、姉の中へと茜のちんぽは向かっていった。完全に剥け切ったそれは、すでに大人のサイズへと成長していた。

「あぁぁ」

 するっと姉の中へと入り込んだモノから、茜は姉の中の感触を知ってしまった。悪くない。いや、それどころか、吸い込まれそうだ。もっともっと感じたい、触れたい。

「そうよ、茜ちゃん。もっと、もっと奥まで」
「お、姉ちゃ・・・うっ」

 茜は自分の奥からおしっことは違うものが自分のちんぽから噴出すのを感じた。そして、姉の締め付けが、搾り出そうとするのに対抗しながら、さらに動かそうとしている。茜は、自由にならない体で姉の膣へと中出ししてしまった。その事実は、茜の心を崩し始めた。

「うぉぉぉ」

 茜は姉の乳房を両手で掴むと、さらに腰を動かして体全体で姉の体を犯し始めた。体を束縛する力が少し自由になっていることに気づかない。心へと治夫だった者が侵入し始めたのだ。

「よーしよーし。その辺でやめときな」

 露天風呂に男の声が響く。

「誰だ!」

 茜、すでに治夫の姿になった者が周りを見回した。

「いやぁ、ずっと見てたのに今さら誰だとも言われてもなぁ」

 露天風呂の一角の岩の上に座り込んだ男がいた。ロビーで茜のことを見ていた客の男だった。

「どういうことだ」

 治夫はあせりを隠せない。治夫は、イチモツを抜き去ると茜の姉を解放する。すると、姉が男に向かって走り出した。手には先ほどまではなかった刃物が握られている。
 しかし、それを難なくかわした男は、60代の動きとは思えないほどのすばやさで姉から刃物を取り上げる。しかし、その途端、それは崩れ落ち、小さな水溜りに変わってしまう。

「ほうほう、女将を取り込んで、こんな芸当もできるようになったわけか。しかし、若い女の肌は何とも言えんな」

 男は、組み敷いた姉の体を堪能しているとでもいうような、にやけた顔をした。しかし、特に何をしたようにも見えないのに姉が動きを止めて、その裸体を冷たい床に横たえる。

「ちょうどいいから、そのままもらっちまうか」

 治夫は湯の中から、多くの刃物を飛ばす。しかし、それを手で払いのける男。

「何なんだお前は。お前も同類だろう、なぜ邪魔をする。何なら、そこの女をくれてやるから、手を出すな」
「一緒にするなよ。俺はお前が欲しいんだ」

 治夫はぞわぞわと体を振るわせる。

「大丈夫だって、俺は、バイだから」
「バイ?」

 そう治夫が言った途端、男は湯の中に入っていた。治夫の背後だった。

「男も食っちまうって事さ」

 そういって、再び刃物を繰り出そうとする治夫の尻の中へと指を突っ込んだ。

「うあああ」

 男の指が深くめり込むと、治夫は絶叫し体の動きを止めた。

「助けてくだ・・・さい」
 
 急に女の声が出てくる。

「女将さんかい。気の毒だとは思うが、運が悪かったと思って一緒に食べられてくれな」

 その言葉に反応したのか、治夫の体が崩れ始めた。水となった表面が溶け出すと茜の体が現れてくる。

「ふん、逃げ出すか」
 
 男は茜の尻の穴から指を抜くとその体を抱えて、湯の外にでた。湯の中には、黒々とした靄が収束し始めた。男は、湯の中へと一握りの丸薬を放り投げた。人の形を取りつつあったそれは、その丸薬に触れた途端、金切り声をあげた。

「大丈夫、それくらいなら外にも漏れないから」

 声がおさまった後、ひときわ大きくなった丸薬がそこに浮かんでいるだけだった。

「隠者の垢をようやく捕獲だな。女将とその姉の精気をとりこんで、栄養も満点だな。ふふ」

 そういうと、男は丸薬を懐に納め、女将姉妹を脱衣所へと運び込んだ。

「あなたは・・・」

 まだ、ショックから立ち直っていないのか、茜が焦点の合わない目で男を見つめる。

「時枝十衛門とでも名乗っておくか。女将の姉は、隠者の湯という秘湯に巣くっていた妖怪にのっとられていたんだよ。大丈夫、おっちゃんが治療をすれば洗脳も解ける、ふふふ」

 茜の記憶は、ズボンを下ろす十衛門の姿を見たところで途切れた。朝には、幸せそうに眠る姉と女将が脱衣所で倒れているところが見つかったそうだ。時枝十衛門と名乗った男は、部屋に宿代を置いたまま姿を消していた。誰もどこへ行ったのかは知らない。



あとがき

男体化のシリーズです。妖怪がでてきて、それを謎の男、時枝十衛門が退治していきます。もちろん、エッチーな状況になります。どうでしょうか。


石山