ラジパンツォ


2007.10.26
作:石山



 

 あたしは、ふとロッカーの奥に扉があるのに気付いた。資料室に放置されたごく普通の古い鉄のロッカーだった。壁にぴったりついているのに、その扉は開いた。

「え、え」

 あたしは目と耳を疑った。そこには、何の変哲もない路地裏があった。ここが地下2階じゃなければ、隠し通路かと思ったかもしれない。あたしが呆然としていると目の前を野良犬が通りすぎていった。あたしは、気味の悪さよりもその中に入る、いいえ、出ていくという誘惑のほうが何倍も大きかった。あたしは、会社の制服を汚さないようにロッカーに潜り込んだ。
 中にある小物かけ用のフックにスカートのスリットがひっかかる。でも、小柄なあたしは難無く通り抜けた。

「これっていったい」

 ロッカーを背にして独り言をいった。そこには空まであった。ロッカーは錆び付いていて古いビルの裏口の脇へと立ててあった。奥には資料室が見える。
 あたしは少し不安になってロッカーの中に戻ろうとした。でも、路地の先にパレードが見えた。あたしは、たまらず小走りにそちら向かった。

 恐る恐る顔を出して見るとそこでは本当にパレードが開かれていた。
 でも、明らかにおかしかった。みんな同じ姿なのだ。服が同じというわけではなく、顔と体型がうりふたつのおじさんたちなのだ。

 みんな一様につきでたお腹を揺らして、踊っている。気持ちが悪いのもいて、ミニスカートからはち切れそうなショーツをが見えていたりするおじさんもいれば、セーラー服からおへそとおにくを垂らしているおじさんもいる。

「うわー。ブランドものじゃない」

  あたしのお給料じゃ買えないようなドレスとアクセサリを身に付けたおじさんもいる。でも、普通のスーツや男物のおじさんも半分くらいいる。あたしは、そのままビルの陰に隠れたまま、眺めていた。そこは、あたしの町と似ていて、少し違う町。あたしの位置からちょうどビルに掲げた大きな画面が見える。女性のニュースキャスターが特別番組をやっているようだ。

「今年もいよいよ、ラジパンツォの日となりました」

 ラジパンツォ?

「はじめにラジパンツォの歴史を振り返って見ましょう」

 あたしは、少し立つのが億劫になったので、壁に寄りかかるようにしゃがんだ。

「今から70年まえ、第3次大戦を終結させるための切り札としてラジパンツォ博士によってラジパンツォ化ナノマシンが開発されました。それから、われわれは年に一度、同じラジパンツォ博士となり真の平等を味わうのです」

 ナノマシン? 何のこと?

「ラジパンツォ化が遅れている方はご注意ください。間もなくラジパンツォの発情が始まります。みなさん、一緒にいい汗かきましょう。なお、これよりイメージ映像を流しますので、音声のみの放送となります。ご了承ください」

 ニュースキャスターがそういうと、画面が変わった。それも、アダルトビデオだった。いま、昼間だよ? おまけに街角の大型ディスプレイだよ?

 あたしは、正視するのも気恥ずかしくて周りを見て見た。すると、パレードのように流れていた群集が立ち止まってしまっている。みんな、むさくるしいおじさんだから、とても暑苦しい。
 なんとなく眺めていると、一部から大きな歓声があがった。信号機に裸のおじさんが登っていたのだ。おまけにそれを見た集団が、おなじように裸になり始めた。

「ラジパンツォ博士のつくったナノマシンは、ラジパンツォ博士の姿かたちに変化させるだけではなく、博士の性癖を拡大し発現するように設計されました。わが国では、最初のラジパンツォの日から半年という早さでラジパンツォの日における特別法が制定されました」

 あの姿がラジパンツォっていう人の姿で、みんながそれに変身してしまったと・・・。それで、性癖っていうのは、あそこで脱いでることかな・・・。
 大型ディスプレイに向けて多数の人が目を向けているのが分かる。そして、もぞもぞと服の中に手をいれている人もいれば、座り込んであきらかにマスタベーションをはじめている人もいる。あちこちに服が散乱しており、自分の穿いていたショーツをかぶっている人もいる。

「みなさんも、平和の象徴であるラジパンツォの日は全人類平等であることを確認するためにも、本能に逆らわず、脱ぎ、そして、自慰を行いましょう」

 その言葉に合わせたかのように各々股間をまさぐり始めた。群集が一つの生き物みたいに震えているように見える。大型ディスプレイには、体をくねらせる半裸の女性が映っている。

「一生童貞を通したラジパンツォ博士のお言葉を思い出しましょう。『銃なんか捨て、自分を慰めろ』
 ラジパンツォ博士が終結させた第三次大戦では、多くの兵士たちが銃を捨て、自慰を行ったといわれています」

 夢だとしたら、かなり馬鹿らしい。でも、なんだか熱っぽいのは分かる。

「決して人を襲わず、自己完結できる快感。その中で軍事産業よりもアダルト産業が隆盛を誇ってきました。娘たちは父の喜びを、妻は夫の苦しみを知る事で家庭から不和が減ったとも言われます。そろそろ、遅れラジパンツォの人たちも変化したのではないでしょうか」

 その時、あたしの体が重くなった。スカートからはすね毛の伸びた足がストッキングに押し込まれている。

「い、い、いや〜〜〜」

 あたしもラジパンツォ化してしまったみたい。でも、この気持ち・・・。

「だ、だめ・・・」

 あたしは、股間から来るむらむらとした感情を抑え切れなかった。窮屈な服を脱ぐともっと大型ディスプレイの見やすい位置へと移動した。

「おっぱい!」

 もう、いろいろどうでもよかった。とてもいい気持ち。

 どぴゅ。





あとがき

ラジパンツォ=large パンツ =デカパン  
なんか、おそ松君のデカパンさんが溢れている図を思い浮かべてしまって、書いてしまいました。自分で書いててよく分かりません(笑


石山