スパイス


2007.09.30
作:石山



 

 深刻な顔をした彼女がお茶を飲んでいる。両親が居ないからと言って彼女の家に来てみたのに、家の中は足の踏み場もないくらい散らかっている。両親がいないだけがマシというものだ。

「ねぇ、人生ってスパイスが大事だと思わない?」
「そりゃ・・・。今日、君に会いにきたのは、そういった意味合いが大きいんだけど」

 彼女はにこりとすると、俺を庭に連れ出した。

「あのね。おねがいがあるの・・・」

 彼女のお願いは池掃除だった。確かに彼女の家は旧家で都内なのに庭付きだ。いや、そんなところに惚れているわけじゃないんだけど。

「まあ、いいよ・・・。その代わり後で肩とか揉んでくれよ」
「いいわよ」

 彼女がとびっきりの笑顔を見せてくれる。俺は腕をまくる。長靴は借りた。
 掃除する池は古いせいか、水は完全に抜いていない。俺は中に生えた藻などをとりながらブラシを振るう。あらかた掃除が済んだ頃、まくっていた服の袖がずり落ちてくる。

「くぅ、ブラシが重いな・・・」
「そりゃそうよ。もう、女の子になってきてるんだから。さあ、あとちょっとよ」

 俺は長靴をはいた女の子になっていた。

「ごめんね、この池って生贄が必要なのよ。大丈夫、3日もあれば戻るから」
「なんで、そんな大切な事をいわないんだよ」

 俺は高い声で詰め寄った。

「だって、彼女が毛むくじゃらのマッチョになったらいやでしょ? まえ、そういってたじゃない。お兄さんに似なくてよかったって」

 彼女が不在の時にここに来た事があるが、その時のお兄さんを見て確かにそういった記憶がある。

「まさか、あれって」
「そう、あれ、あたし。ね、ほら、お風呂行きましょ。ちゃんと揉んであげるから、すみからすみまでね」

 俺は自分のふくらんだ胸を見下ろして思った。今日のスパイスも悪くないと。

 

あとがき
即興作品です。
池掃除が題材。


石山