I and who 〜読書中〜

あろーん 作


 自転車をいつもの場所に片付けて家の中に入る……のは止めて縁側に座る。
しはらくじんわりと日の光を浴びてポケーとしてからさっき買った本を開く。
エッセイ集だが興味深い事が細かに書かれていて中々に面白い、一個のエピソードが
短くすぐ終わるのでサクサク読んでいると急に右足が強い力が何度も襲ってきた。
何だろうと見てみるとちっこいヤツが膨れっ面で私の足をペシペシ叩いている。
「何をしてる?」
私が気付いた事が嬉しかったのか一気に笑顔になる。こういうので相手の怒りを消せる
コイツは得してると思う。そして自分のテンションと口にズレがあるらしくかなり
言葉に詰まりながらコイツは私に喋りかけた。
「あっ、あのね。おやつ食べたいっ」
「おやつ?」
「おやつー」
目をキラキラさせているのであげてもいい気になってしまうが、いつも家族からは
コイツ等に甘いと言われているので今日くらいはきっぱりと断わることにした。
「ダメ。まだ2時だろ早過ぎる」
「ええー」
ガーンという擬音が入るような驚きと絶望の顔をしてコイツは固まった。
固まったコイツを見てるのも楽しいが今は本のほうが楽しいのでまた読書へと戻す。
傍から見たら縁側で本を読んでる男と固まってるヤツというなんともシュールな光景
だが庭の中なので気にしない。さらに三エピソードくらい読み進めた所で正気に
戻ったようで私に思いっきり飛びついてくる。
「おやつよこせー」
「うわっぷ」
いきなりの強襲にかわす事も出来ずモロに食らって後ろの戸にガンと後頭部ぶつけて
しまった。
「痛いだろうがっ」
「おやつくれないのが悪いんだ」
「だからって、やっていい事と悪い事があるだろうがっ」
首根っこを掴んでコイツを放り投げるとまたすごい勢いで飛びつく。今度はちゃんと
見てたのでなんとか受けとめるが今度は手を噛みついてきた。あまりの痛みに
耐えられず手を離してしまう。
「噛むとかはないだろっ」
「そんなの知らない」
「謝らないと絶対おやつやらねぇ」
「おやつくれないと離れないー」
そう言ってコイツは私のお腹にギュっと抱きついて離れようとしない。
無視してもいいが本が読みづらいのでコイツを腹から背中にくるりと廻して位置を
変えた。コイツは『おやつをくれると言うまで離れない』と言うのが遂行できれば
満足らしく楽しそうに抱きついているのでこっちはまた読書を続ける。
「なにやってるの?」
声のするほうを向くとキーが呆れて顔をしてこっちを見てる。
「読書。多少ジャマが入ってるが」
「おやつくれるまでこうしてるの」
同じに喋る私達をキーは苦笑いしている。なんとなく腹が立ったので強めにキーに
言う。
「そんなツラするなら何とかしろよ。お前の所のだろっ」
「いや、ソイツはアタシの姉ちゃんの所の子だから」
「でもなんとかしてくれよ……」
「じゃあおやつあげるしか無いんじゃない?」
「……お前も一緒に食いたいだけだろ?」
「そ、そんな訳ないじゃない。あはは」
キーは乾いた笑い方をしている、多分図星なのだろう。しかしおやつをやれば
終わるのならそれもいいかとも思ってきている。
「おい、トラ」
「なーにー?」
「おやつやるからいい加減離せ」
「おやつくれるの?」
「ああ……」
「ありがとー」
やり切った顔をしてトラは私の背中から離れてキーに擦り寄る。もしかして最初から
仕組まれてたのかもしれないと思ってしまう私に腹が立つ。でも約束したので
縁側の下にあるカラーボックスから猫のエサを取り出しばら撒いてやると二匹は
ぴょんぴょんとはしゃぎながらエサを食べていく。
「いつでも食べるくせにおやつとか言うなよな〜」
「いいじゃん。アンタがこっちに来てくれないのがいけないんだからね」
「母さんの朝夕のゴハンでガマンしろよ」
「アタシ達が喜ぶ姿見るの好きなクセに〜。ほら、いつも見たく食べさせてよ」
キーがそういいながら擦り寄ってくるのでエサを手に持って近づけてやると
地面に撒いたのよりも美味しそうにエサを食べた。やっぱり私は猫に甘いらしい。